仮面ライダーの妖奇とエロス ~怪異!蜂女~ その①
仮面ライダー。1971年に放送が開始した初代「仮面ライダー」から2018年現在放送中の最新作「仮面ライダービルド」まで、47年の歴史の中でテレビシリーズは29作を数え、合計の放送話数は1300話を越える、まさに日本を代表するヒーロー番組の一つである。
仮面ライダーシリーズの人気を支えた柱の一つとして挙げられるのが、毎週仮面ライダーと対決する怪人の存在だろう。恐ろしくも個性的な怪人の姿は、仮面ライダーの雄姿と並んで視聴者を熱狂させてきた。登場怪人の中からは一度見たら忘れられないショッカー幹部の死神博士や地獄大使(共に仮面ライダー)、強力な好敵手としてのアポロガイスト(仮面ライダーX)、シャドームーン(仮面ライダーBLACK)といったライダーに匹敵するほどの人気を誇る「名怪人」も誕生している。
そんなライダー怪人の歴史の中、一際妖しく美しく、人々を魅了する悪の華がある。
ショッカー怪人・蜂女である。
蜂女は初代仮面ライダーの第8話「怪異!蜂女」(1971年5月22日放送 監督:北村秀敏 脚本:滝沢真里)に登場するショッカーの改造人間であり、毒ガス工場で働く奴隷を集めるために催眠装置の付いた眼鏡をばらまき、かけた人々を操って拉致していた。
長い仮面ライダーシリーズの歴史においてはごく初期に登場する1話限りの敵怪人だが、その独特の魅力から今も根強い人気を誇っている。
蜂女の魅力① 顔の造形
何より特徴的なのはその頭部である。顔の上半分、鼻より上は蜂をモチーフとした改造人間らしく昆虫の複眼と触覚が備わっている。だが顔の下半分、口元より下はメイクで青く塗られただけで、人間の顔がむき出しになっているのである。
他のショッカー怪人、蜘蛛男やコウモリ男、サソリ男などが頭部全体をマスクで覆っている中で、顔の下半分が人間のままというデザインになっているのは蜂女だけである。この意匠はライダー怪人中でも珍しく、この後登場する怪人には声が女性である怪人、女性が改造された怪人、人間に化けた時の姿が女性である怪人はいても、怪人体になった時には改造されすぎて性別の判断がつかなくなっているものがほとんどなのだ。
しかし蜂女は目元をマスクで覆うだけで、口元は露わにしている。目元を非人間的なパーツで隠すが、唇の部分は妖艶な色を塗ったのみで人間のままで露出させている。ここに倒錯的な美が生まれる。
フロイトの口唇期を引くまでもなく、唇はセクシャルなイメージと密接に結びついている。その他の部分を隠されることにより、唇の持つエロスはより一層イメージとして引き出されることになる。
また仮面で隠された顔の上部からも、隠されるが故のエロスが醸し出されている。人はあえて隠されているものに興味を惹かれ、想像を刺激される。露出と隠秘、二つのエロスが相乗効果を発揮して、蜂女の妖美な輝きを高めているのである。
≪続く≫